大阪地方裁判所 昭和49年(カ)5号 判決
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【判旨】
一本件再審の訴における不服申立の対象となつた再審原告敗訴の確定判決は、甲第四号証の契約書の再審原告作成名義部分を事実認定の基礎としているところ、右再審の訴の提起後、この契約書の再審原告作成名義部分が平山大による偽造文書であるとして、同人が有印私文書偽造罪により有罪判決の言渡を受け、この判決が確定したことは、当事者間に争いがない。
二しかるに、右文書がはたして偽造されたものかどうかについてはなお当事者間に争いがあるので、まず、甲第四号証の再審原告の名下に顕出された印影が同人の真正な印顆の押捺によるものかどうかについて判断する。
上記の点に関し鑑定人神戸光郎が前訴訟においてなした鑑定の結果は、右の印影を再審原告の保有する印顆により紙片に顕出された印影、同人の本人尋問における宣誓書に顕出された印影及び同人の昭和三九年六月三日付印鑑証明書に顕出された印影と対照すると、互いに「極めてよく類似する」ので、いずれも同一の印顆の押捺によるものと認めても不合理はないとなすもののようである。しかし同鑑定人は、再審訴訟において再度鑑定をなし、いずれも甲第四号証の印影より後に顕出された四つの印影を判定の資料に加えてより精密な印影照合を試みた結果、甲第四号証の昭和四五年四月一〇日付誓約書の再審原告名下に顕出された印影は、証人平山大の証言により同人の作成文書として真正に成立したと認められる丙第一八号証の昭和四五年七月三〇日付履歴書に顕出の印影と対照すると、印影外周線の右下部がともに欠けていないことの他字体についていくつかの形態上の類似点があり、互いに同一の印顆の押捺によるものと思われるけれども、これを<証拠>にそれぞれ顕出された印影と対照すると、後二者はその印影外周線の右下部が欠けているのに前者は欠けていないこと等いくつかの明らかな形態上の相違点があるので、互いに別個の印顆の押捺によるものと思われるとし、結局前回とは別様の結論を導き出しているのである。そして、甲第四号証の右印影を、<証拠>にそれぞれ顕出された各印影と対照すると、後二者の各印影は外周線の右下部が明らかに欠けており、再審訴訟における鑑定の結果をあわせ考えると右欠損は印顆自体の欠損によるものと推認されるところ、後二者の各印影の約一年半後に顕出された前者の印影には外周線の右下部になんらの欠損も認められないのであるから、甲第四号証が作成された時点において再審原告名義の互いに類似した複数の印顆が存在し、そのうちの一つは外周線右下部が欠けているもので、同人が町役場に対する印鑑の届出に用いているものであるが、甲第四号証に顕出の印影は、右印顆と異なる別個の印顆によつて顕出されたものであることが窺われるのである。以上の次第で、第二回の鑑定結果の方が第一回のそれよりも信頼がおけるものと考えられる。
ところで、甲第四号証の再審原告名義の印影を顕出するに用いられた印顆の作成については、証人平山大の証言により真正に成立したと認められる<証拠>によれば、同人がかつて他からの融資を得るにつき担保設定のため再審原告の印鑑を一時預つていたのを奇貨とし、これを押捺して顕出させた印影のある紙を宮崎市内のまるふく堂という印判店に持込み、同店の職人に再審原告の印鑑に酷似するつげの印鑑を作成させたというにあるのに対し、当の同店の職人とされる高牟礼義治の再審訴訟における証人としての証言は、同店における該印鑑作成の事実を強く否定するものであるうえ、再審原告の前訴訟における本人としての供述も、同人所持の印鑑を一時平山大に預けたことを否定するものであつて、その作成の方法、経緯の詳細は必ずしも明らかであるとはいえない。しかしながら、前段判示の事情をあわせ考えるなら、その作成の方法、経緯の詳細についてはともあれ、甲第四号証の右印影を顕出するのに用いられた印顆は、再審原告の承諾なしに同人所持の印顆に似せて偽造したものであるとの平山大の供述記載及び証言は、十分信用するに足るものといえるのである。
三右判示の事情に加えて、<証拠>をあわせ考えると、平山大は、昭和四四年一〇月宮崎地方裁判所で詐欺罪等により懲役一年の実刑判決を受けて控訴中、昭和四五年一月ころ逃亡して上阪し、同年四月再審被告方に勤務することとなつたが、身元保証人をつけるよう要求されたことから、妻の父である再審原告及び養父平山五郎名義の誓約書を作成すべく、同月一〇ころ大阪市東区内の喫茶店で、従兄藤本治雄及びその同僚高橋俊一にそれぞれ平山五郎及び再審原告名義の記名をしてもらつたうえ、平山五郎名下には有合わせの印鑑を、再審原告名下にはかねて偽造してあつた同名義の前記印鑑をそれぞれ押捺して誓約書を作成したこと、滋賀県在住の養父平山五郎及び宮崎市在住の再審原告のいずれも、平山大が再審被告方に勤めたことを知らず、誓約書の作成に関与しなかつたことが認められるのである。
再審被告は、再審原告が強制執行を免れるため種々の卑劣な行為をしたとして、平山大の自白は不実の疑いがあり、また有罪の確定判決も右自白を偏重した誤判の疑いを容れる余地のあるものと主張する。そして、<証拠>によれば、再審原告は、再審被告から前訴訟の提起を受けるに先だち、その請求債権を被保全権利とする仮差押決定の送達を受けたが、それから程経ぬ昭和四五年八月二八日に昭和四三年一二月二〇日売買を原因として自己の所有する六筆の土地につき、昭和四六年三月二九日に昭和四五年九月四日贈与を原因としてやはり自己の所有する一五筆の土地につき、いずれも長男前田真弓名義に所有権移転登記の手続をしたこと、右各売買及び贈与は、再審被告と再審原告及び右前田真弓間の当裁判所昭和四七年(ワ)第五七八九号所有権移転登記抹消登記手続等請求事件の判決において、詐害行為として取消されたこと、宮崎地方裁判所昭和四七年(ヌ)第一九号不動産競売事件において、昭和四七年八月一六日訴外相馬トシエが執行力ある正本に基き配当要求の申立をしたが、同月二三日には右申立を取下げたこと、そのようなことがあつた後、平山大が本件において再審原告の訴訟代理人になつている弁護士大江篤彌に促されて昭和四九年一一月一九日捜査官憲に前示有印私文書偽造の事実を自白したいきさつであることが認められる。しかし、こうした事実関係から直ちに再審被告の主張するように平山大の自白の真実性や同人に対する有罪判決の正当性に疑を挾むことは、失当といわざるを得ない。
四以上要するに、前示再審原告敗訴の確定判決が証拠とした甲第四号証の誓約書中の同人作成名義部分は、平山大の偽造にかかるものと認定すべきであり、右偽造行為につき同人の有罪判決が確定したのであるから、右確定判決には民事訴訟法第四二〇条第一項第六号、第二項所定の再審事由がある。
五以上説示したとおり、甲第四号証中再審原告作成名義部分が平山大の偽造にかかるものであるとすれば、これをもつて再審原告が身元保証契約を締結したという再審被告の主張事実を認める証拠資料とすることはできず、他に原告の右主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。したがつて、右身元保証の事実の存在を前提とした再審被告の再審原告に対する請求は、理由がなく、これを認容した前示の確定判決は、取消を免れず、右請求は、これを棄却すべきものである。
六次に、再審被告が、再審の訴における不服申立の対象となつた確定判決を債務名義として再審原告所有の不動産の強制競売を申し立て、該手続において配当金二〇五万九六七五円の交付を受けたことは当事者間に争いがないが、前記のとおり、再審原告は再審被告に対し身元保証契約による債務を負ういわれはないのであるから、再審被告は再審原告に対し右のとおり交付を受けた配当金を法律上の原因のない不当利得としてその支払の請求を受けたより後の本件判決言渡の日以降の民法所定年五分の率による遅延損害金を附加して償還する義務があり、その履行を求める再審原告の請求は、これを正当として認容すべきものである。
(戸根住夫 大月妙子 的場純男)